日本経済大留学生らが「動く観光案内所」
多様な言語で 外国人客案内
今年開学50周年を迎えた日本経済大(福岡県太宰府市、都築明寿香学長)の留学生たちが福岡市の天神地下街で、歩き回りながら外国人観光客の問い合わせに応じる「動く観光案内所」の社会実験をした。
福岡市との連携協定に基づく地域貢献の一環で、韓国ソウル市の「動く観光案内所」が外国人客の急増する福岡で有効か検証するのが目的だ。学生の半数以上が留学生の日経大には多様な言語に順応できる人材が集まる。地下街で外国人客は母国語が通じると分かると、一様に安堵の表情を浮かべた。
天神地下街で社会実験
社会実験は11月1日に実施した。午後、地下街の店舗位置を記した地図パネルの前で、外国人らしき女性3人組がまごついていた。日経大生たちが「何かお困りですか」と声を掛けると「キャナルシティ博多行きのバス乗り場はどこ?」と中国語で尋ねられた。
中国吉林省出身の商学科3年、房思瑶さん(24)が駆け寄り、身ぶり手ぶりを交えて最寄りの乗り場を教えると、女性3人組は口々に言った。
「謝謝(ありがとう)」 「香港から来たそうです。役に立ててよかった」。
房さんは楽しそうだった。
社会実験には福岡市観光産業課が協力した。福岡観光コンベンションビューローの福岡市観光案内ボランティアや外国語を話せるボランティア「ウェルカムサポーター」も加わり、総勢約40人で取り組んだ。1週間前の10月25日の研修で応対の注意事項、地下街の回り方を学び、一帯の施設の位置を確認して歩いた。
当日は4、5人がチームになり、韓国語や中国語、英語、ネパール語、ベトナム語など話せる言葉で「案内」と書いたシールを背中に貼った黄緑色の目立つジャンパーを着て地下街を巡回した。
平日にもかかわらず、外国人客は予想以上に多かった。韓国、香港、中国、台湾、ベトナム、シンガポール、フィリピン、米国、フランスなどさまざまな国・地域から訪れていた。
「トイレはどこ?」「博多駅へ行きたい」「地下街はここで間違いないか」…。質問はスマートフォンで検索するのも面倒なシンプルな内容が多かった。個々のケースを見れば、チーム内に対応言語を話せる学生がいなくて別のチームから呼ぶのに手間取るなど課題もあったが、ビューローの手助けもあり、専門知識が十分ではない学生たちも、ほぼ問題なく案内できた。
近くのホテルや商業施設への行き方を地図で教えるだけでなく、入り口まで同行した学生がいた。外国人客は、自分たちの助けになろうとパンフレットを広げ、歩き回る若者たちに接し、自然と笑顔になった。
各チームは午前10時~午後6時の8時間で計83件の問い合わせに応じた。スタッフとして参加した韓国出身の姜來秀さん(25)は今春日経大を卒業したOBで、留学生を活用して外国人を対象にした調査や通訳・翻訳業務を受託する会社を起業している。
「母国語と日本語ができる留学生は外国人客をもてなす際の貴重な人材になり得る」と話す。
日経大商学科ホテル・観光ビジネスコース長、竹川克幸教授は「初めての試みで学生には戸惑いもあったが、異国での心細さも知る留学生による心からのおもてなしや温かみが出せた。AI(人工知能)の時代だからこそ、『動く観光案内所』を人と人のコミュニケーションを大切にする福岡流観光案内としてアピールしていったらどうか」と提案した。
韓国ソウル市内の明洞、南大門、広蔵市場など9カ所で歩き回りながら外国人観光客の問い合わせに応じる制度。市観光協会が2009年にスタートさせ、現在約90人が従事している。1日8時間・週5日勤務で月給は212万㌆(約21万円)。主に英語、中国語、日本語が堪能なスタッフがチームを組み、目立つ赤いジャンパーを着て屋外で活動している。
対応できない言語は韓国観光公社の電話を仲介する。市観光協会によると屋外活動のため、天候へのスタッフの備えに気を配るという。業務は自動翻訳機に取って代わられるのではないかとの質問には「機械には同行案内も緊急時の対応もできない。代わられない」との返答だった。
日本経済大は1968年に経済・経営系の単科大学として開学し、今年50周年の節目を迎えました。時代の流れは急速で少子化も進み、大学は個性を磨かねばなりません。日経大には福岡県太宰府市の福岡キャンパスに加え、東京渋谷、神戸三宮両キャンパスがあり、計5000人近い在校生のうち、3300人超が留学生です。グローバルに活躍する人材育成に強みを発揮する大学としてチャレンジを続けています。
現在グループの大学は約25カ国・地域の50大学と提携しています。英国のオックスフォード大、ケンブリッジ大とは20年来の交流があり、毎年10人前後の留学生を受け入れています。今年4月からは経営学部に「グローバルビジネス学科」を新設しました。授業は8割が英語で海外留学を必須としています。
地域貢献にも力を入れています。9月、太宰府市内に灯明を並べる「古都の光」では、約500人の学生がボランティアスタッフとして携わりました。熊本地震や九州豪雨後には、留学生を含む多くの学生が率先して被災地支援に向かいました。
これからも学生たちが夢をかなえるために学ぶだけでなく、さまざまな実践経験を積める機会を提供する大学でありたいと考えています。
企画・制作/西日本新聞社メディアビジネス局
【協力】日本経済大学