海の守人

食害魚の効率的な駆除方法を考え、新たな食材として取り入れを実践する「そう介プロジェクト」を立ち上げた丸徳水産の犬束ゆかりさん(写真上・右から2番目)。犬束さんをはじめ、プロジェクトチームが一致団結して生み出した『そう介のメンチカツ』は、2019年に開催されたFish-1グランプリコンテスト ファストフィッシュ部門でグランプリを受賞した。

新たな食文化を作った結果、
島民の意識も変わる

 サバやアジなどの養殖から加工までを行う一方で、直営の飲食店「肴や えん」とテイクアウトの店「FoodLaboまるとく」も運営する丸徳水産。その水産会社が対馬の海を守る活動「そう介プロジェクト」をスタートさせました。このプロジェクトの中心人物の一人・犬束ゆかりさんに、プロジェクト立ち上げのきっかけについて伺いました。
「プロジェクト発足のきっかけは、磯焼け(海藻がなくなり、海が砂漠のように見える現象)の原因となるイスズミが、焼却処分されている現状を知ったことです。イスズミは地元で『猫またぎ』と言われクセが強くて食べられず加工も難しい魚ですが、ただ捨てられるのはもったいないと思い、店のスタッフと食べられるよう試行錯誤しました。その中で生まれたのがイスズミを使った『そう介のメンチカツ』です」。この「そう介のメンチカツ」が認知されたことで漁業関係者の意識も大きく変わり、イスズミを捨てるのではなく犬束さんらに届けるようになったのだとか。現在、体験ツアー「海遊記」を企画し、海の現状を発信し関心を持ってもらう「語る漁業」と漁業を見せることで楽しさを知ってもらう「見せる漁業」という新しい形の漁業にも挑戦中。犬束さんは家族一丸となり、海の大切さを伝える活動をしていました。

丸徳水産

2002年に創業した有限会社丸徳水産は、2010年にお食事処の「肴や えん」、2012年に仕出しや弁当のテイクアウト専門店「FoodLabo まるとく」を開業。今回紹介した「そう介プロジェクト」は、2019年からスタート。磯焼けや漂着ゴミについて対馬全体で取り組む機会を生み出した。

自慢の逸品
そう介のメンチカツ15個入
対馬おにぎりセット

「持続可能な水産業の実現」をミッションに掲げ漁師目線で現場から状況打破を考える「フラットアワー」は、自分たちで釣り上げた魚介類の販売をはじめ岸釣りや船釣りのコーディネートするブルーツーリズムや大学や研究所を対象とした研究コーディネートなども行う。また、販売する魚の鮮度をより長く保つための処理や温度管理も徹底している。

海と魚の専門家が切り開く
漁業の新たな可能性

 東京大学大学院修了後、長崎大学の研究員などを経て2015年に対馬に移住し、「合同会社フラットアワー」を設立した銭本慧さん。彼がどんな経緯で対馬に移住し、どのような活動をしているのかを伺いました。
「元々水産学の研究者だったんですが、その中で日本の水産業が衰退していることを知りました。また、業界を立て直すために“すべきこと”ははっきりしているのに、それが現場に伝わっていないという現実に直面したんです。そこで自分が現場に入って研究しようと思い、対馬に移住したんです。私たちの主となる事業は、漁業と漁獲した魚の直販。その中で新しい漁業の形を現在模索しています。今までの漁業はたくさんの魚を安価に消費者へ運ぶということを目的としていましたが、現代の消費者は豊かになり、ニーズも多様化しています。その状況だからこそエンドユーザーとコミュニケーションが取れる直販ならニーズに応えられ、需給のバランスも考えられると思ったんです。またエンドユーザーに合わせて、鮮度を保つ下処理ができるのも私たちの強みですね」。
 銭本さんたちが実践する一次産業の新たなビジネスモデルの展開や漁業を通じた町おこしなどは、漁業の希望として全国から注目されている。

フラットアワー

長崎大学を卒業後、海洋環境変動の研究に没同した銭本慧さんと研究者時代の仲間・須崎寛和さんが2016年に設立。自分たちで釣り上げた鮮魚の直販をベースに、来島者に対馬の海を体験させるブルーツーリズムや、大学や水産研究所の調査・研究に協力する研究コーディネートなどを行っている。

リアス海岸に代表され、複雑な形状の沿岸は美しい景観を見せる対馬の海をフィールドに海岸視察を行う「環境スタディ」では、シーカヤックやワークショップを通じて対馬の大自然を体感しながら、漂着ゴミのリアルな実態に触れることができる。楽しいだけでなく学びもあるレクリエーションのため、企業研修や学生向けの体験学習としても国内はもちろん海外からの参加者も少なくない。

対馬の美しい海を目の前に
漂着ゴミ問題の実態について学ぶ

 対馬の上島と下島の間にある浅茅(あそう)湾は、リアス海岸に囲まれた湾で、湾内からは霊峰・白嶽や金田城跡なども見ることができます。そんな浅茅湾をフィールドに、環境問題の一つとなっている海岸漂着ゴミについて学ぶ「環境スタディ」を実施しているのが「対馬CAPPA(つしまかっぱ)」。その代表を務める上野芳喜さんに、彼らが目指す未来について伺ってみました。
「シーカヤックを通じて私たちも多くのことを学びました。環境について考えたのもこの美しい景観を守りたいという願いからです。ただ、漂着ゴミやマイクロプラスチックの問題は今すぐ解決できる問題ではありません。注意喚起し、後世に技術をつなげて未来に託すしかないんです。私たちはいつか解決する未来を信じて、この活動を続けています」と上野さんは未来に希望をつなげます。

対馬CAPPA

海岸清掃イベント開催のほか、漂着ゴミを含む海ごみ対策に関わる普及啓発活動を実施し、対馬市行政と市民・民間団体・海ごみ関係者との連携・調整・情報共有を行う“中間支援組織”として活動することを目的とした団体。